- Blog記事一覧 -脳卒中 運動学習について②ー運動学習の3つの段階ー
前回は脳卒中運動学習について①ということで、小脳による誤差学習と中脳ドーパミンによる強化学習についてお話しました。
今回は運動学習について、3つの段階の段階があること、それぞれの段階で重要なこと、我々セラピストが臨床でどのような工夫をおこなっているかについてお話したいと思います。
【運動学習の3つの段階】
運動が自動化、つまり無意識的に運動が行えるまでに3つの段階があり、学習の段階によって脳の活動する場所が変化していきます。
①の認知段階は、「試行錯誤」を行っている段階で小脳の誤差学習が強く、感覚への気づきがとても重要です。
この段階の重大な条件は正しい運動指令と運動に関連する感覚の正しい関係の成立となります。
その為、我々セラピストは、利用者様の運動時、あるいは運動前に適切な感覚が入力されるように、筋肉の位置や硬さ・長さを準備し、運動時の関節の運動方向、姿勢コントロール、座面や床と利用者様の重心位置など、様々なことに徒手的に介入し、適切な感覚情報が入力されるように促しています。
写真1 適切な運動のタイミングで筋が活動するように、利用者様の弱い筋肉をセラピストが把持し、筋肉へ固有感覚を入力している
正しい運動の際に学習者は正しい感覚情報に注意を向けることが大切なのですが、転倒に対する恐怖心や非麻痺側での代償的な過活動、痛みによる防御反応などがあると、運動中に感覚情報に注意を向けることが難しくなります。(そもそもこれらのことがあると正しい運動も難しいですが・・・)
その為
◆目標とする課題の難易度を調節
◆転倒の恐怖心をなくすために利用者様の近くにテーブルや手すりを用意するなどの環境設定
(※利用者様によっては近くに掴まるところがあると非麻痺側の過剰な活動が強まる方もいらっしゃるので、その場合はあえて台などを近くにおかないなど、利用者様の特性を評価した上で環境設定を行っています)
◆セラピストによる軽度の接触で恐怖心を軽減するなど、
感覚情報に注意が向くように工夫しています。
そして利用者様は学習課題を理解・意識し、正しい運動を選択して実行する必要があります。
その際に適切なフィードバックが与えられれば、その中の必要な情報は繰り返されることで学習されていきます。②連合段階にあたります。
最終的な目標は運動の自動化ですので、運動の習熟に従って徐々にセラピストの介入量を減らし、利用者様が自分一人で運動ができるように段階付けを行っています。
③自動段階で重要なことは、運動に「過度な注意を必要としないこと」です。
セラピストの声掛けによって、運動中に過度な注意を求めると本末転倒になってしまいます。
声掛けで意識を促すのか感覚情報で無意識的な姿勢・運動コントロールを促すのか、運動学習の習熟度や課題の内容によって見極める必要があります。
【まとめ】
・運動学習には①認知段階②連合段階③自動段階の3つの段階がある
・学習の初期段階は正しい運動の指令と適切な感覚情報の入力が重要で、適切な感覚情報が繰り返されることで運動学習が進む
・学習者は感覚情報に注意を向ける必要がある
・学習者は正しい運動を選択するために課題を理解・意識する必要がある
・「過度な注意を要求」しないで運動が行える神経の基礎を作ることがセラピストの目標である。
長くなってしまいましたので、ここで一区切りにしたいと思います。
次回は、運動学習の定着についてお話できればと思います。
加藤でした。
【参考文献】
1)久保田 競:学習と脳-器用さを獲得する脳-. サイエンス社. 2007
2)Anne shumway-cook Marjorie H.Woollacott 監訳 田中繁 蜂須賀研二:モーターコントロール 研究室から臨床実践へ 原著第5版. 医歯薬出版株式会社. 2020
3)森岡周:リハビリテーションのための脳・神経科学入門. 共同医書出版社. 2010