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2023 6月の記事一覧
前回は発達障害をお持ちのお子様に対してのコミュニケーション発達の支援についてお話しました。
今回は身体障害をお持ちのお子様のコミュニケーション発達の支援についてお話したいと思います。
「共同注意」とは、他者と関心を共有する物事や話題へ、注意を向けるように行動を調整する能力(Bruner,1975)ことをいいます。
ただ見ているだけではなく、他者と視線と注意が共有されていることが大切になります。
「共同注意」は、乳児と養育者がある対象を同時に見る「共同注視」の機能が必要です。
【共同注視の発達のためのこどもへの支援】
①姿勢制御の話
常田(2007)は共同注視の質が、子供の姿勢制御能力の発達によって制約を受けること示唆しました。
下のグラフは常田の実験で、共同注視が成立した時のこどもの月年齢と対象物の位置関係を表しています。
こどもの首がすわる前の生後2か月ではこども―対象物ー母親の顔が一直線にならんでいた時にしか共同注視が成立しなかったことに対し、首がすわりだした生後3~4か月ではこどもの顔の前、座位を獲得しだす生後5か月~7カ月では体の前、座位が安定しずり這いやハイハイなど自己での移動が可能になってくる生後7か月~9カ月では背後の空間まで共同注視が成立しています。
姿勢制御の発達に伴い、共同注視が可能な範囲が拡大していくことがわかります。
特に座位を獲得しだす生後5月~7か月の変化が著明ですね。
生後5月~7か月ごろの大きな姿勢制御の変化として体幹が安定し、姿勢の保持に使われていた上肢が支持の役割から解放され、おもちゃへ積極的にリーチを行うようになります。
つまり能動的に周囲に働きかけていくようになります。
私は共同注視の範囲拡大にあたり「座位の獲得」よりも、この「能動的に周囲に働きかけるようになる」という部分が重要だと考えています。
リハビリ場面でも、座位を獲得しているお子様であっても、よく使う方の手の空間(例えば、右手の方がよく使う場合、右側の空間)には注意が向きますが、ほとんど使っていない方の手の空間には注意が向きにくく、声掛けをしながらおもちゃを提示しても共同注意が成立しにくいといった場面によく出くわします。
吉川(2018)の重症心身障がい児の研究で大変興味深い研究がありましたので、ご紹介したいと思います。
痙直型四肢麻痺の10歳のお子様に対し、支持座位でリーチ課題を行いました。
こちらのお子様は普段は右手を使用されることが多いようです。
B8の位置へのリーチは、提示物に自発的に気づくことができずに、目前に物を提示し配置しなおした上でリーチの促しが必要だったそうです。
しかし、B8へのリーチ課題を5回実施した後は、提示者の視線のみで提示物に気付くことができ、共同注視も確認されるようになったとのことでした。
このことから吉田(2018)は「視覚的注意の配分は、手の使用頻度と関係して空間的広がりをもつと推測された」と述べています。
この研究は1症例のみの研究ではありますが、普段の臨床でもこのようなことはよく体験します。
胎児期や出生後まもなくの時期など、早期に重篤な脳の障害を受けたお子様は心身機能に重複した障害が見られます。その結果、刺激を受容する感覚や周りの環境へ能動的に働きかける行動が難しくなります。
お子様が能動的に活動できるように体幹・上肢機能の向上、起居動作の獲得はもちろん、座位保持や歩行器・起立台など上手く福祉機器を使いながら、お子様が能動的に活動できる手助けが大切です。
お子様の能動的な活動を支援する際に大切にして頂きたいことがもう一つあります。それは「待つこと」です。
上に記載したように運動の難しさに加えて、感覚や刺激の受容・処理にも難しさを抱えておられるお子様は、感覚の受容・処理に時間がかかり、運動の開始が遅れることがあります。
お子様の運動が開始される前に大人が手伝ってしまうとお子様が能動的に活動するチャンスが少なくなってしまいます。
お子様の様子を見ていると手伝いたくなってしまうこともあるかも知れませんが、そこはぐっとこらえて、是非「待つこと」と意識してみてください。
②注意と覚醒
注意機能を発揮するには、適切な覚醒レベルであることが大前提となります。
覚醒が低くても、高すぎても(興奮状態・泣き叫んでいる等)周囲への注意が向けにくくなります。
お子様が穏やかにすごしている覚醒レベルが理想です。お子様とのかかわりの中で、覚醒水準の調整は必須です。
部屋は明るい方がいいか・うす暗い方がいいか
部屋は広い方がいいか・ある程度狭い方が落ち着くか
部屋は静かなほうがいいか・ある程度生活音があるほうがいいか
多くの方がすでにされていることと思いますが、対象のお子様がリラックスできる環境をぜひ探してあげて下さい。
③視覚の話
共同注意の発達の為に提示するおもちゃの工夫も大切です。
特に脳性麻痺児は、近視・遠視・乱視・斜視・立体視ができない・微細なサッケード運動の難しさ等、80%は何らかの視覚的な障害をきたす(Kozeie 2007,2008)と言われています。
児にとって、少しでも見やすいおもちゃを用意することが大事になることも多いです。
色の識別の発達としては、赤と緑、黄色と緑の区別は2か月で可能となり、これらは比較的見やすい色になります。
縞模様も見やすく、48カ月には大人の縞視力の水準に到達すると言われています。
青を処理する網膜の錐体細胞の発育は遅く、黄緑と紫の区別は4か月でも難しいそうなので、提示するおもちゃは、赤・緑・黄色、縦縞などが見やすいと思います。
信号機と同じ色ですね!
また、可能でしたら是非お子様の眼球運動の評価を行ってあげて下さい。
背臥位や座位、立位それぞれの姿勢で、お子様の頭が動かないように安定させた状態で、眼球だけで上下左右同じ範囲を動かせるか、おもちゃを遠くから近づけて両目が均一に近づくか(輻輳[ふくそう]と言います)、おもちゃを左右や上下に一つずつ提示し、素早く視線を動かせるか等、確認してあげて下さい。
お子様によって、眼球運動がしやすい姿勢が違いますし、どの位置であればおもちゃが見やすいかを確認しましょう。
そして、見やすい位置からおもちゃを提示し、おもちゃと養護者の顔を交互に注視しやすいように関わってあげて下さい。徐々に苦手な方の空間にも視線が向けられるようにチャレンジして頂ければと思います。
リハビリをしていて、お子様が座ったり、立ったり、手が使えるようになることはとても嬉しいことです。
でも、それ以上に嬉しいのは、お子様と家族様が笑いあって楽しそうに過ごされている場面に出会えることです。
微力ながら、そんな場面を多く持てるようなお手伝いができたらと改めて思います。
かなり長くなってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。加藤でした★
【参考文献】
1,常田美穂(2007)乳児期の共同注意の発達における母親の支援的行動の役割. 発達心理学研究 第18巻 第2号 97‐108
2,吉川 一義(2018)重症心身障害児の空間への視覚的注意と姿勢・運動調整の関係. 特殊教育学研究 55(5)249-257
3,児山隆史・樋口和彦・三島修治(2015)乳児の共同注意関連行動の発達-二項関係から三項関係への移行プロセスに着目して―. 教育臨床研究 14 2015研究.P99-109
4.大藪泰(2020)共同注意の発達-情動・認知・関係. 新曜社
5. 浅野大喜(2012)リハビリテーションのための発達科学入門. 株式会社協同医書出版社
6. 2013 ボバース基礎講習会資料
今回は発達障害をお持ちのお子様に対してのコミュニケーション発達の支援について、「共同注意」「三項関係」に着目してお話ししたいと思います。
こどものコミュニケーションの発達において、「共同注意」「三項関係」の発達が重要になります。
「共同注意」とは、他者と関心を共有する物事や話題へ、注意を向けるように行動を調整する能力(Bruner,1975)のことをいいます。
ただ見ているだけではなく、視線と注意が他者と共有されていることが大切になります。
下のような写真の状態ですね。
注意を共有できることがコミュニケーションや、やり取りの基盤となります。
・共同注意の発達
乳児は、生後2か月ごろ以降になると対面者の目元や口元に注意を向け、あやすと笑うといった「社会的微笑」が認められるようになります。「こども―他者」の二項関係の始まりです。
生後5か月には意図的におもちゃや物にリーチを行うようになり、「こども―物(玩具など)」の二項関係が積極的になります。
共同注意は「こども―他者」「こども―物(玩具など)」の二項関係から、「こども―物-他者」という三項関係のやりとりを行うようになり発達します。(生後9カ月~10カ月ごろ)
「三項関係」へ発達すると、おもちゃや物を使って他者とのやり取りやあそびができるようになります。
・二項関係から三項関係関係にどうやって発達していくか?
児山ら(2015)は「二項関係から三項関係への移行には「交互注視」が重要な役割を果たしている」と述べています。
「交互注視」とは他者と対象物とに視線を切り替えることをいいます。
この時に他者の情動表出を見て、他者の物に関わる意図をくみ取るようになります(塚田2001)。
この「交互注視」によって、「他者意図の理解」が発達していきます。
「他者意図の理解」例:大人が手を差し出すと「おもちゃを渡してほしい」という大人(他者)の意図を理解し、おもちゃを手渡すことができる
自閉症スペクトラムなどの発達障害をおもちのお子様は、この三項関係への移行が難しいことがままあります。
三項関係の発達が生後10カ月ごろであることから「10カ月の壁」と呼んだりしています。
注意の機能はズームレンズやスポットライトに例えられる仮説があります。(ズームレンズ説、スポットライト説)
発達障害をお持ちのお子様は、注意のピントを合わせにくかったり、逆にピントが過剰に合いすぎて他のものにピントを移動させることが難しいことがあります。
このような注意機能の問題が関与して、「交互注視」が難しく、三項関係への移行が不十分になっている様子が見受けられます。
そのような場合はお子様の普段の様子を観察し、
①そもそもの注意のピントが合いにくいのか
②注意が持続しないのか
③一度ピントがあった注意を解放しにくいのか
を評価してみて下さい。
①②の場合は、おもちゃに注意が向けやすいように、静かな片付いた部屋でおもちゃ以外の注意を引くものを減らす。
その上でおもちゃの形状・色・音が鳴るものなど、注意を引きやすいおもちゃで遊ぶ。
養育者はこどもの注意を引く際に、声掛けだけでなく軽く肩などを叩いて 声掛け+体性感覚 といった多重な感覚を入力する。
このように注意のピントが合わせやすいように 環境・提示物・関わり方の工夫をしてあげて下さい。
③の場合は、こどもの注意をこちらに向けようとしてもほとんどがうまくいきません。そもそも注意が解放しにくいわけですから・・・。
そのような場合は、無理にこどもの注意をこちらに向けさせようとするのではなく、こどもが注意を向けているものに養育者が注意を「合わせ」てあげて下さい。
常田(2007)は、「共同注意では、乳児と養育者がある対象を同時に見るだけでなく、視線の動きや表情・発声を用いてその対象にまつわる情動的メッセージを相手に伝えている」と述べています。
こどもとのやり取りの中で、ただ単におもちゃを見せるのではなく、表情を大きく動かしり、声の調子を明るくしたり、変化をつけながらこどもに伝わりやすいように関わると、より「他者意図の理解」がしやすくなります。
コミュニケーションは急にできるようになるものではなく、毎日の積み重ねです。
たくさん記載しましたが、こどもと養育者が楽しい時間を過ごすことが一番のコミュニケーション発達の支援になると日々のリハビリで感じています。
上手くいかないことも勿論あるかと思いますが、できたかどうかだけにとらわれずに、お子様と養育者様の楽しい気持ちを大切にしてほしいです。
今回は発達障害をお持ちのお子様に対してのコミュニケーション発達の支援についてお話しました。
次回は身体障害をお持ちのお子様のコミュニケーション発達の支援についてお話したいと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
加藤でした★
【参考文献】
1,児山隆史・樋口和彦・三島修治(2015)乳児の共同注意関連行動の発達-二項関係から三項関係への移行プロセスに着目して―. 教育臨床研究 14 2015研究. 99-109
2,常田美穂(2007)乳児期の共同注意の発達における母親の支援的行動の役割. 発達心理学研究 第18巻 第2号 97‐108
3,大藪泰(2020)共同注意の発達-情動・認知・関係. 新曜社
4.浅野大喜(2012)リハビリテーションのための発達科学入門. 株式会社協同医書出版社
5.J・Ⅿフィンドレイ、IDギルクリスト(2006)アクティヴ・ビジョンー眼球運動学の心理・神経科学- (株)北大路書房