- Blog記事一覧 -道具操作における母指の重要性
みなさん、こんにちは。
今日は、ヒトの手の構造や特徴について興味深い文献を読みましたので、臨床での印象を踏まえながらお話したいと思います。
人類は進化の過程で直立二足歩行を獲得し、それに伴い道具を使用する手を持ち始めました。
本間ら¹⁾は親指を多様に動かせることは、ヒトの手の一番の特徴であり、かつまた道具を使用する為の適応であると述べています。
では、ヒトと他の霊長類との手の違いは何か?をまとめたいと思います。
・親指の構造
ヒトなどの場合は手根中手関節が鞍関節となっており、母指の付け根で回旋運動を行うことができます。また、ヒトは母指の長さが相対的に長く母指を他の指と対向させてうまく指を使うことができます。
ゴリラとヒトの親指の写真
一方、原猿・新世界猿やメガネザルなどは手根中手関節が蝶番関節となっており、親指の付け根での回旋運動が制限されています。
そのため、母指と他の指のふくらみ同士をうまく接触させることができません。
・親指の筋肉
母指球には、短母指外転筋・短母指屈筋・母指対立筋・母指内転筋の4つがあります。
しかしながらスローロリスというサルは短母指外転筋・短母指屈筋・母指対立筋が癒合しあい筋の分化は明瞭ではありません。
オランウータンも短母指屈筋・母指対立筋が癒合し、分離した動きが困難です。
ヒトの母指球筋はそれぞれがよく発達しており、特に短母指外転筋は他の母指球の筋とは独立して存在し、短母指外転筋を単独で収縮させることができます。
母指の手外在筋には長母指外転筋・長母指伸筋・短母指伸筋・長母指屈筋の4つがあります。
短母指伸筋はヒトにだけ存在し、長母指屈筋はヒトでのみ独立した筋として存在しています。(本間・坂井1992)
短母指伸筋と長母指屈筋が働くとどんな動きができるの?といいますと
下の写真のように母指のIP関節のみを屈曲させることができます。
この肢位のまま示指との対立位にもっていくと・・・。
指尖つまみという、指先のつまみになります。
小さなものをつかみ上げるとき、針に糸を通すとき、鉛筆での書字、箸の操作・・・。精密な手の動きのときに必要になる動きですね。
鉛筆を持つだけでしたら、母指・示指の対立で可能ですが、実用的な字を書くとなると、母指IP関節の選択的な屈曲は必要不可欠になるかと思います。
では、短母指伸筋と長母指屈筋を活性化すれば、精密な把持が可能となるのかと言われると残念ながらそうはいきません。
先ほど出てきた、母指対立筋がしっかりと働いてくれなければいけませんし、母指を独立して動かせるように尺側(小指側)の安定や虫様筋・背側骨間筋といった中手骨をしっかり安定させる筋肉の活性化が必要です。
また、利用者様の中には、母指球筋、とくに内転筋が短縮し、そもそも母指があまり開かないといった方にもしばしばお会いします。
まずはしっかりと母指を開くことができるようにする必要があるかと思います。
そして、精密な把持の為に必要なのが指の動きだけでなく感覚情報の処理と運動制御です。
持ち上げるものの大きさ、重さ、硬さ・・・様々な感覚情報を元に手指の運動や力加減をコントロールする必要があります。
その為には、実際の物品操作による練習は必要不可欠です。
利用者様によっては、実際の物を持って頂いた方が指が動きやすい方もいらっしゃいます。
「麻痺側肢は使わないと良くならない」
これからも利用者様のお力になれるように、精進していきたいと思います。
以上、道具操作における母指の重要性についてでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
加藤でした!
【参考文献】
1)本間敏彦・坂井建夫 .霊長類の親指を動かす筋についてーヒトの手の特徴を考えるー.霊長類研究Primate Res.8:25-31,1992
2)松沢 哲郎ら.霊長類進化の科学.2007
3)Anne shumway-cook Marjorie H.Woollacott 監訳 田中繁 蜂須賀研二:モーターコントロール 研究室から臨床実践へ 原著第5版. 医歯薬出版株式会社. 2020